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2022-10-10 普及・育成・強化の狭間

_ [] 普及・育成・強化の狭間

  馬のことで、ちょと長文なので、興味のない人は読み飛ばしてください。

  昨日の日記にも書いたけど、昨日まで山梨県小淵沢で開催された第23回全日本エンデュランス馬術大会2022は、完走率が全競技8/25 30%、100km 2/4 50%、80km 0/5 0%、60km 1/8 13 %、40km 5/8 62.5% という、厳しいものだった。そして、完走できなかった失権の17頭のうちカットオフタイムに間に合わないことからライダーの判断で走行中止したり、次のループに進まなかった馬が、なんと14頭だった。つまり、いろいろな理由はあるにせよ、今回の大会では設定されたカットオフタイムが、かなり厳しいものだったことがわかる。

  カットオフタイムの適正さというのは、簡単に評価できないけど、なぜ厳しいカットオフタイムを設定したかについて、JEF(日本馬術連盟)の役員の方に少しお話しを伺えた。

  この設定変更の背景は、とても端的に言えば、選手強化が背景にあるということだ。JEFは、競技団体として、FEI(国際馬術連盟)の参加団体なので、その目的としては、世界レベルでの競技者の育成や強化を目的にしている。これは、水泳や体操など他の競技でも同じで、選手の育成、強化をして、世界に通じる選手を輩出することが、大きな目的になるわけだ。

  このような強化という視点でエンデュランス馬術競技をみると、世界選手権クラスと大きな差がある。実際にFEIの公認している他国のレースだと平均速度が、18km/h とかの高速なレースが展開されている。ちょうど、同じ日程で開催されたフランスでの103kmのレースのトップは、18.9km/hだった。こうなると、日本でのレースも、世界に近づけるためには、少しずつでも高速化をしていくという方針は否めないのだろう。とはいえ、馬のウェルフェアというFEIの掲げる憲章の視点では、悪戯に高速化するだけではないわけで、実際にFEIでも20km/hというリミットを設けているようだ。

  しかし、馬の走行速度が同じでも、その走路や環境によって、馬の負担もレースの結果も大きく左右される。そこには、天候のような要素もあるが、こればかりは自然の中で競技であり、定量的に調整できるものでもない。

  他方、走路の傾斜については、競馬業界などでは、随分と研究が進んでいて、トレッドミルや坂路での馬の負荷と心拍数などの定量的評価や論文も発表されている。これは、論文云々のレベルでなくても、多くが納得するとこではあるが、平地と山岳部におけるレースでは、馬への負担が大きく異なる。 小淵沢のコースの場合、高低差が500m近くあるのだから、平地とはまったく条件が異なるわけだ。

  例えば、エンデュランスの世界では、最も有名なテビスカップでは、160kmの走行時間のカットオフは24時間で、今年の優勝者の平均速度は、11km/hだ。また、今年の7月に見学したアメリカの西海岸で開催されたAERC公認のレースは、かなり高低差のあるコースで、谷越え、川越があった。このレースの場合も、50mileのカットオフが12時間だった。結果としては、オーバータイムの失権はなく、走行時間もトップで8時間10分だったので、やはり10-11km/hくらいの走行速度だ。

  このようなことを考えると、世界を目指す目標設定といっても、単純に平均速度と走行距離でカットオフを決めることは、いささか乱暴かもしれない。実際に、JEFの日本馬術連盟競技会規程 第 34 版では、”802.1.2 走行時間制限は設営するコースによって適正速度を考慮し、設定しなければならない。走行平均速度が時速 8km 以上となるよう設定する。” とある。そこで、FEI主催または公認の世界レベルのレースの経路の起伏や条件を調べて、ある程度の調整を試みるというのは、決して意味のないことではないだろうし、そういう試みを実証していくことは有意義だろう。

  それでも、今回の全日本では、少なくとも設定された厳しいカットオフタイムの中でも、優秀な選手と乗馬が選手権競技を完走したわけで、11km/h事態が無謀というものではなく、強化という目的では、ステップアップの可能性が実証されたと評価されるものだと思う。今後、この結果に続くライダーや乗馬を育成する意味では、大きな一歩だと思う。

  他方、スポーツ競技の振興や普及という意味では、いささか課題感が残るかもしれない。僕の業界の話だけど、情報処理学会の論文査読のポリシーには、『石を拾うことはあっても玉を捨てることなかれ』というのがある。世界に挑む選手や乗馬を育てるのであれば、その元になる競技人口がとても重要だ。残念ながらエンデュランス競技は、馬術競技の中でも圧倒的に競技人口も競技会の開催も少ない。そのような中、乗馬クラブや運営側の努力により、限られた回数とはいえ、素晴らしい大会が開催されてきている。そこで、大事なことは、クルーにせよライダーにせよ、運営側にせよ、参加して良かった、また参加したいという思いが醸成されることだろう。これは、完走することが絶対ではなく、仮に不幸にも失権したとしても、肯定的な経験になる要素は多々ある。実際に、今回も多くの参加者が大会の素晴らしさ、楽しさを表明している。

  とはいえ、あまりに厳しい要件の競技会だけになってしまうと、そういう良さが損なわれる可能性も否定できない。要するには、バランス問題なのだろう。

  アメリカでは、FEIとAERCという二つの団体がレースを主催していて、AERCはいろんな意味で、速度重視ではない。JEFは、FEIの参加団体なので、FEIルールに従うのは当然だけど、参加者を増やしていくのには、AERC的なエンデュランスの取り組みがあっても良いのではないだろうか。

  もちろん、先にも書いたようにJEFも8km/hが公認要件なのだから、ことカットオフについては、JEFの規定に違反しない範囲で、主催者が協議していけば良い。しかし、それ以外のルールなどについては、AERCのような別なルールでの運営もあっても良いかもしれない。この場合には、もちろんJEF公認ではなくなるけど、2年前に設立された日本エンデュランス・ライド協会さんには、このあたりも視野にいれて協議する活動をしてはどうかと期待するとこだ。

  ところで、今朝は小淵沢から戻って、SunnyでAliceとデートしようとおもっのだけど、とにかく落ち着かない。馬装してハミつけたら少しはどうかなとおもったけど、まったく効果なし。Fさんにちょっと下乗りしてもらおうと思ったけど、もう馬場に行く前に跳ねてる。 というわけで、張り子さんすぎるので、騎乗は諦めて帰宅。

  紅玉がまだあったので、アップルパイを焼いて、夜は若くていたずらなエリザベス王女とデートして就寝。

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_   以下の記述は、私の勘違いで、5月も10km/hでカットオフタイムを設定したことの指摘を受けましたので、以下の部分は本文から削除しました。

  "なお、従来山梨での大会は、10km/hの平均速度でカットオフタイムを設定してきたが、5月の大会も同様に11km/hであり、今回が初めてではない。ただし、この5月の設定理由は、11月の全日本に合わせるという理由だった。"


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